小学校高学年で広がりを見せる「教科担任制」

小学校において、特定の教科を学級担任以外の教員が担当する「教科担任制」を、現在実施中の5、6年生に加えて、3、4年生にも拡大する方針が文部科学省によって決定されました。これは、働き方改革の一環として行われるもので、導入している学校では教員の専門性向上などの効果が確認されていますが、一方で、いくつかの課題も指摘されています。
(※2024年9月16日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)

教科担任制導入で専門性向上と効率化を目指す江戸川区西小岩小学校の取り組み

「速く走る自分をイメージしてみよう」
今年の1学期、東京都江戸川区の区立西小岩小学校の校庭で、6年生を前に体育専科の三上直之主任教諭がそう声をかけました。これは短距離走の授業の一幕です。
三上教諭は学級担任を持たず、体育に特化した指導を行う専科教員として活動しています。かつては中学校で教えていましたが、西小岩小学校が昨年度から都の教科担任制推進校に指定されたことを受け、赴任しました。現在は5、6年生の体育の授業を週12~13コマ担当し、空き時間には授業の準備や校内の巡回を行っています。「担当教科に専念することで専門性をさらに深め、それを授業に反映できるのです」と語っています。
また、大野知子校長によれば、体育は器具の準備や片付けに時間がかかるものの、同じ教員が複数コマを担当することで作業効率が向上しているといいます。運動会や水泳の授業といった負担の大きな活動も、三上教諭が中心的に指導を担うことで、より円滑に進行しているとのことです。

教科担任制の拡大とその効果、江戸川区西小岩小学校における取り組みと課題

西小岩小学校では以前から、東京都教育委員会による追加配置により、音楽、図工、家庭、外国語の専科教員が配置されていました。この度、体育の専科教員が加わったことを契機に、5、6年生においては学級担任を持つ教員にも専門教科を割り当て、完全な教科担任制を導入しました。その結果、学級担任としての授業は学級活動や道徳、総合学習に限定される形となっています。
5年生の学級担任である嵜野美佳主任教諭は、5年生の3学級すべての国語を担当し、「児童が他のクラスの進度を気にして意欲が高まっている」と手応えを感じているといいます。
ただし、勤務時間は大きく変わっていないとし、他の教科準備が不要になった分、担当する国語の準備により多くの時間をかけているとのことです。また、体育の授業についても運動会前などには担任が補助に入る場面が多いといいます。
校長の大野知子氏は、「教員の担当コマ数は追加配置により減少しており、授業を任せられる頻度が増えれば勤務時間の短縮にもつながる可能性があり、授業の質向上にも期待が持てる」とその効果について述べています。
一方で、3、4年生への教科担任制の拡大には新たな課題もあるとしています。「年齢の低い児童は、特定の教員が長時間接することで安定感を得る傾向があるため、3、4年生へ拡大する場合は、低学年のうちから一部教科で教科担任を置き、徐々に慣らしていく工夫が必要ではないか」と指摘しています。

教科担任制の拡大と課題「教員負担軽減」と「児童との関係構築」の両立へ

小学校における教科担任制は、これまで都道府県教育委員会などが独自に進めてきましたが、2022年度からは文部科学省が予算を確保し、5、6年生を対象に担当教員の追加配置を行い、制度の推進に力を入れています。
2022年度の実施状況(計画ベース)では、小学6年生の理科は65.4%(前回2018年度調査から17.6ポイント増)、算数は15.9%(同8.7ポイント増)と広がりを見せています。
また、3、4年生への拡大案は、長時間労働が課題となっている公立学校教員のなり手減少を受け、教員確保の対策として文部科学省の諮問機関である中央教育審議会の特別部会が今年5月に審議まとめとして提言したものです。文部科学省は、次年度予算の概算要求に教科担任制の拡大を目指し、1750人の増員を含める方針です。

教科担任制の拡大がもたらすメリットと課題、質の向上と子どもとの関係構築の両立を目指して

明治学院大学の星野真澄専任講師は、教科担任制の拡大について「授業の質が向上し、教員の負担軽減にも役立つ」と評価しています。「教員の空き時間が増えることで、学年での対応がチームで行いやすくなり、1年生からの導入も視野に入れられるでしょう」と述べています。
一方で、学級担任が直接子どもの様子を見られる時間が減ることで、子どもとの関係構築が難しくなるといった課題も指摘されています。星野講師は「日頃の情報共有や連携を通じて学校全体のチームワークを高めることが必要です。また、担任は給食や掃除、朝や帰りの会、行事などで積極的に子どもたちと関わり、授業以外でも子どもと触れ合う時間を大切にしてほしい」と話しています。